さびしい道を走ってはゆけない

富野由悠季機動戦士Zガンダム』29-34話。ジェリドのもう1人の主人公っぷりがあらためていいなと思った。ダンバインでいうバーン・バニングスであり、エルガイムでいうギャブレット・ギャブレー。なんども主人公の前に立ちはだかっては、その度に撃退される。その過程で成長していくすがたは、もはや主人公の様相である。話は横道に逸れるが、ジェリドの顔を見ていると小学校時代の友人のことを思いだす。1年年上の男で、もう15年くらい会っていない。

ほか、サラのカミーユに対する「アイスクリーム、おいしかったね」のふくざつな甘酸っぱさに痺れたり(31話「ハーフムーン・ラブ」)、ジオンのパイロットスーツを着て戦うというシチュエーションも燃えたりする(32話「謎のモビルスーツ」)。戦闘からレコアが帰還しなかったことの責任をカミーユに問われ、殴り飛ばされたクワトロがレコアの遺したサボテンを見てつぶやく「サボテンが花をつけている……」(33話「アクシズからの使者」)。凄まじい台詞である。自らの咲く場所を見つけたレコアの運命が、彼女が去って空になった部屋の、彼女が世話をしていたサボテンの開花によって、彼女が想いを寄せていた人間によって知覚される。ネット上ではネタ台詞と化しているが、めちゃくちゃにキレたシーン以外の何物でもない。

実家暮らしがいよいよつらくなってきた。ひとがいるわずらわしさよりも、ひとのいないわびしさのほうが、いまのわたしには心地よく感じられる。存在の息苦しさばかりが胸を押しつぶし、出口のなさに暗澹たる気分に陥る。また、いっしょに暮らすようになった祖母のことを思うと、わたしはさびしいきもちになる。わたしはおばあちゃん子だから、自身のからだの思い通りにいかなさだったり、とつぜん娘夫婦の家に住環境が移動したりといった彼女の境遇に、きりきりと胃が痛んでしまう。やさしいこころばかりがそのそばにあるわけではなく、わたしだって、ささくれだつ気配に身を任せてしまうことくらいある。しょうもない火種がパッと花を咲かせる。それはだれにとっても、かなしいことだ。


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テレビを切り、野菜をシンクの上にあつめ、ひき肉のカレーをつくる。玉ねぎ、新玉ねぎ、にんじん、ほうれん草、ひよこ豆、トマト缶。にんにく、生姜、ターメリッククローブナツメグコリアンダー、カルダモン、カイエンペパー、ブラックペパー、塩、醤油、はちみつ。インデラカレーのカレー缶。胃に熱がこもる味。妹がひき肉のカレーが食べたいといっていたのだった。まだ味が決まっていないのだけれど、とわたしは告げたが、おいしい、と米やパンは添えずにカレーだけで食べて、彼女は雨のなかを出勤していった。わたしはその瞬間、シャワーを浴びていた。玉ねぎを炒め、にんにくの皮を剝いている頃合に父が釣りから帰宅し、着替えるなりテレビをつけてモンハンをやっていた。その光景だけで、わたしの精神がだめになってしまう。めんどうなこころだ。