差のパルタージュ

書店へ。売野機子売野機子短編劇場』(2020)、森とんかつ『スイカ』1巻(2021)、乗代雄介『十七八より』(2022)、『皆のあらばしり』(2021)を買う。『十七八より』は単行本(2015)で所持しているが、あまりに好きなので文庫でもほしいと思い、買った。『旅する練習』(2021)がそれなりに話題になって以来、こんな地方の書店でも入荷するようになっているのがうれしい(さすがに『掠れうる星たちの実験』(2022)はなかった、マイナー出版社の憂鬱、おお国書刊行会……)。

茶店でしごとの打合せ。こうして地元でワークが生まれることのよろこび。何より美術や文化の領域で新たな友人ができることがとてもうれしい。東京でも友だちができるのはハッピーなのだから、地元でならばひとしおだ。今年の冬はフリーになってから最大の繁忙期を迎えそう。がんばりましょう。

夜、豚ごぼう大根舞茸の炒めもの、白菜の味噌汁。

黙らずにはいられない。黙っていられたら日々のなにがしかを言葉にして、このように文として束ねはしない。さらにはブログの記事や同人誌の原稿にして、世界に向けてパブリッシュしない。なんなのか。これはなんなのか。書けば書くほどむなしさが募り、そのむなしさを埋めるために文字を増やしつづける。それが人生。


f:id:seimeikatsudou:20220206003714p:plain
470


幾原邦彦少女革命ウテナ』(1997)21-30話。ウテナは観ると明確に疲れる。スペダンと併走しているがゆえに、ひしひしとその差を感じる。カロリーが高い。

21話、回想シーンを示す黄色いバラにグッと惹きつけられ、それを経てからの茎子と冬芽のシーンに白いバラを出現させるさまに目を奪われる。表示位置は対角。回想とはかつてあったことであり、では、これは?と層をいちまい上塗りされた気分になる。決闘シーンにおいて、茎子の名乗りをはさんでウテナは「きみは……」とにど口にするのだが、決着後に「ぼくはこの子の名前もしらない……」とつぶやくことでそのひっかかりが解消されるのが痛快だった。

22話における、注目を促す矢印を画面に表示させる演出はすごかった。プリキュアの応援マークもこういうところに源流があるのだろうか。火事のシーンのツートンカラーの美しさや、闘わない回であることにもびっくりした。その踏み台を通過しての、23話でこれまで決闘を受ける側であったウテナが、自ら決闘を申し込む展開にもしびれた。この2話の脚本はシリーズ構成を務める榎戸洋司フリクリもこのひとなんだといまさらながらしる。御影の大胆な発言を聞いた際のウテナの腕を下げる芝居や、決闘場で写真立てがパパパパパと倒れていく演出がキレていた。担当・橋本カツヨ

24話ではツワブキ視点の総集編がはじまり、ひとつの作品のなかに2回もあるんだ!とおどろく。彼の裸体があらわになるシーンで、パオーン→チンチンとふざけきった演出が為されるのがとてもいい。七実ツワブキが声を発する際に画面に表示される、「や」と「あ」だけが描かれた視力検査ボードもたのしい(その語が発されるたびに、指示棒が文字を次々に指していく)。

ひとつの転換点となるのは25話。エンジン全開のスポーツカーの運転を放棄し、胸をはだけてボンネットに跨る暁生……。なんて狂っているんだと声を上げてわらった。決闘のバンクも新たになり、絶対運命黙示録もニューアレンジが施される。バトルシーンにおいてはこれまでの机に変わって前述のスポーツカーが登場し、そのエンジンが、ブレーキが、ヘッドライトが、華々しく闘いを演出する。きょうれつだった。絵コンテは風山十五。演出は金子伸吾。EDも後期曲に。

そんな新たになった戦闘の反復性が強調されたのが26話だった。たたかうにんげんがちがえども、同じ演出が為されることのおもしろさ。二羽の雛、ミッキー兄妹、ベッドに描かれた鳥の絵と、イメージを連接させていくさまにも唸る。27話では七実の宇宙人への反意がほのみえるが、これは影絵少女のUFO描写ともつながりがあるのだろうか? 自らが卵を産んでしまったと勘違いする七実回だが、「こんにちは赤ちゃん」をBGMに選曲するセンスがサイコーである。

28・29話は樹璃回。彼女と土屋先輩の対話の舞台となるベンチの、夕景と青の美しさが印象的。好きなひとの幸せを願う樹璃、土屋先輩の秘めたる想い、その中間点としての枝織……。関係性のオタクでなくともうおおとなるドラマに胸がくるしくなる。脚本は月村了衛=白井千秋(なぜ名前を変えているのだろうとしらべたら、演出の橋本カツヨがコンテを起こす際に元の脚本からおおきく手を加えたからだそう)。樹璃敗北シーンの作画の繊細さと、うごきだすワイパーに心を奪われる。

30話ではローソクの炎のゆらぎと、ウテナが胸に抱いた恋心を同期させる演出がよかった。アンシーに燭台をもたせているのもいい。影絵ダンスのたのしいうごきも目にたのしかった。風山十五(=五十嵐卓哉)、好きだなあと思った。ほとんど内容をおぼえていないスタドラ観かえそうかしらなどとしらべていたら『キャプテン・アース』(2014)というロボットアニメを見つけ、なおかつシリーズ構成はウテナと同じ榎戸だったので観るリストに入れておく。