珍道

ハロワへ。いわゆる認定日というもので、失業手当がもらえるかどうかを判断する、無職のわれわれにとっては命綱のような日である。認定をもらうには受付の時間が決まっており、指定された時間に書類を提出しなくてはならない。わたしは免許をもっておらず、なおかつハロワはそれなりに遠い場所にあるので、必然的に公共機関をつかって向かうことになる。もろもろの書類をバッグにつめこみ、家をでる。

値段的に電車だなと駅へ向かうことにするが、家をでる時間がぎりぎりになってしまい、猛ダッシュする羽目になる。なんとか間に合い、待合室で息を整えていると、踏切が鳴りだしたのでホームにでる。乗車位置はどこじゃいなと探していると、なんと、電車は反対側のホームにやってくるではないか。向こう側に渡る唯一の手段である踏切はすでに閉ざされており、運転室に立つ車掌に対して必死で乗りたいジェスチャーをするも、完全完璧に無視され、定刻、車両は無情にも出発していく。

オイオイというきもちでグーグルマップをひらくと、なんと数分後にバスが来るというではないか。近隣のバス停を探し、ここかと時刻表をみると、どうも端末のディスプレイに映っている時刻とは異なる時刻が印字されている。しかしマップが指しているのはここでは?と画面を見ながら近辺をうろうろしていると、なんと、バスは反対側の車線からやってくるではないか。バスはあっという間にわたしの前を通過し、だれも立っていないバス停には1秒たりとも停車することなく、カーヴを曲がって視界から消えていった。

ふざけおって、、とまたグーグルマップをひらくも、もう受付時間に間に合う公共の交通手段はなく、わたしに残されたのは自転車か、ちょうど目の前にあるタクシー会社を利用するかの二択になる。料金をしらべると、電車運賃の10倍以上の値段が表示され、金をもらいに行くために金を払うなんてどう考えてもばからしいので自転車をとりに家に帰ることにする。ずっと使用されていないのはわかっていたので、まずは物置の奥深くから空気入れを発掘し、ひと汗かく。さあいざ、と空気を入れようとすると、なんと、タイヤのキャップがないではないか。これではどんなに空気を詰めても走っているうちにすべて抜け、ベコベコいわせながら走っていくことになる*1。ふざけてるのか??? 空気入れを物置にしまい、居間のソファにすわってため息をつく。逡巡したのち、駅のちかくまでまたもどってタクシーで向かうことにする。2500円也。無収入の身分にはデカすぎる額である。

タクシーの運ちゃんに「もしかして○○さん?」と聞いたことのない人物にまちがえられながら時間通りに受付をぶじ済ませると、カウンターの張り紙には1-2時間待ちとあり、それなりに混雑した待合席に座って、このクソみたいな日の記録を打ちこみはじめる。が、ものの10分程度で呼びだされ、みじかいやりとりをして失業手当の入金が可決され、同時に就職相談のほうにまわされる。失業手当を得るには、月に2回の就職活動が必要なのだが、この就職相談もその活動として記録されるので、今月はあと1回ハロワに来ればいいことになる。相談もちゃっちゃと終了し、こんなわずかの時間のためにおれの貴重な現金が……となみだをのみながらハロワをでると、後ろから「すみません」と声をかけられる。振りかえると制服姿の男が立っており、また職質かと身構えるが、彼が警察手帳の代わりに差しだしたのは自衛官と印字されたネームプレートだった。まさかこんな歳になって自衛官にスカウトされるなどとは。数分ほど世間話をして別れ、様変わりした祖母の家に立ち寄り、叔父に家まで送ってもらう。

*1:しらべなおしたらキャップがなくともべつに空気は抜けないそうだ、交通費……