2019-01-01から1年間の記事一覧

さつきちゃんが帰ってこない

フライトの時間が迫っていた。ちょっとお手洗い、といいのこしてさつきちゃんはかれこれ1時間ももどってこない。これもってて、と手わたされた濃いめのホットチョコレートは液体から固体への形態変化をじわじわと進行させており、わたしはすでに飲みほしてし…

ききのがした火花の潜熱

人生初のトークイベントをおえた。思っていたよりもべらべら話せるなとしゃべりながらも調子づいていたのだが、聴衆にはみしったひとが多く、場自体もかぎりなくみぢかな会場であったため、そんな状況であれば誰しもがすらすら言葉を口にするだろうし、せっ…

伊佐未勇は17ででていったよ

27になってしまった。渾身のちからをこめた小説は結果をのこせないことが明らかとなり、ようやく自分の舵取りで出港したかに思えたしごとはすぐに操舵室をしめだされ難破している。「こんなんでいいんだろうか そんな訳ないだろ俺」ってあたまで鳴ってる春の…

もぎに川下

オーロラ沢がバタフライしていた。おれは伸るか反るかのところで自分のからだを信頼しきることができず、気合の声を張り上げながら足裏に刺さる砂利粒の痛みに耐えていた。 「ガンマ! いったれ!」 橋の上からはライチたちが好き勝手にわめいており、時折き…

無言のくぼみに触れるゆび

痛い目をみないと学べない。これはあらゆることに対して言える。たとえば、「胆力をつけるためにはいちど痛い目みないとだめかなと思いながら、じっさいにそうした出来事にでくわせば萎縮してそのままやる気やら何やらが消滅するルートもあるよな、と逡巡して…

エフェクト処理の日

その日は万歳をして終わった。あたまのおかしい上司といっしょにしごとをすることに慣れきっていたわたしは何の感慨も抱かずに万歳をした。三唱あまって四勝よとカツ代は自慢の前歯をケタケタさせながらみじかい両腕を高く掲げ、引っ張られたスーツのはげし…

情感の適宜

実感の話をした。いざそこから歩みはじめるのはいいのだが、何がわたしを騙すのかと問われればまさにその実感が最大の黒幕なのである。かつてわたしは1_WALL展でのステートメントに「自らを信頼し、自らに忠実であろうとするわたしが、わたしの正しさを信じ…

白湯を被る

会社ではもっぱら白湯飲む係として名を馳せているオレだが今朝出社して自分の机の上に置いてある白の封筒の存在に気づいたときとうとうこの生活にも終止符が打たれ新しい時代の到来またはそこへの突入というようなものを己の人生の節目として考えなくてはな…

ひとつの階段といくつかの扉で

階段を降ったところに便所があり、昇ったところに屋上があった。そのちょうど真ん中の踊り場には、わたしがたったいまでてきたばかりの半開きのドアがある。この真緑のドアに付いたからし色のドアノブにかけている手を放せば、分厚い長方形(施工者が手を抜…

酔貝みみずばれ

映画納めはヘレディタリーでした。映画初めはまだ……。2018年観た本数は86本でした。ひさびさに年間ベストを挙げます。[新作のみ] 1 テルマ 2 ハッピーエンド 3 聖なる鹿殺し 4 母という名の女 5 ヘレディタリー 6 ザ・スクエア 7 レディ・バード 8 KUICHIS…

わからない日の蓄積

なにごとも退路を断つとすすみはじめる。しごとも制作もゴリゴリとしてきており、つかれはあるがとてもよい感じだ。気のはるいちにちによって思考が練磨される、その連続がわたしの生を拡充させていく。すでにある知から出発するのではなく、自らの実感から…

喉元をすぎた熱さは

喉元をすぎた熱さはすごいいきおいでころがって、チリにまで届いた。路上に打ち棄てられたサルバドール・アジェンデの肖像画のなかでしばらくくすぶったのを見届けたあと、わたしはそれを拾おうとするのだがなかなかどうして一向につかまることがない。正し…