伊佐未勇は17ででていったよ

27になってしまった。渾身のちからをこめた小説は結果をのこせないことが明らかとなり、ようやく自分の舵取りで出港したかに思えたしごとはすぐに操舵室をしめだされ難破している。「こんなんでいいんだろうか そんな訳ないだろ俺」ってあたまで鳴ってる春のまえぶれ、ただわるいことばかりでもなく、演劇→ダンス→ライヴと誕生日当日に至るまで平日夜にたたきこみ、中トロと牛タンで自分を祝うのだった。ふだんはどちらも高くて買えない食材だけれど、こんなんを毎週食える身分になりてえと牛のべろ、つまりは一頭にたったひとつしかそなえていないわたしがこの世でいちばん大好きな食べものをはぐはぐ噛みしめながらつよく思ったのだった。


f:id:seimeikatsudou:20190311202633j:plain
ほんとうはまいにち食べたい


べろべろ、べらべら、話すことについて、かつて排気口の主宰であるほなみさんが撮っていた映画のなかにおれが明け方の浜辺でばちこんとビンタされるシーンがあるのですが、そのときしなやかに平手をふるった青柳さんの芝居を数年ぶり(新聞家の『SABR』以来?)に観た、格段の技量、空間のトリガーとして、リズムの破壊者として、畢竟それは舞台のなかに異常をつくりだすものとして、おそろしささえおぼえるほどの迫力が発揮されていた。とくに舞台奥の階段を降りてくるシーン、その歩みが空気を凍らせるさまにすさまじさをおぼえた。

演劇の話をするたびに現代口語現代口語と馬鹿のひとつおぼえのように舌のうえでころがしていたにもかかわらず平田オリザの戯曲の上演を観るのは今回がはじめてだったのだが、なるほど日々の平易なやりとりこそがドラマとなって観客を打つということが身をもってわかったし現代日本演劇シーンにおけるひとつのスタンダードとしておおきな根になっていることがまざまざと感じられた。オリザ演出でも観てみたい。映画美学校アクターズ・コースの『革命日記』、アトリエ春風舎にて。


Aokid『地球自由!』@STスポットを観て思ったのも「話す」ことについてだった。終演後に「踊っているときと喋っているときのバランス/折りあいはどうとっていますか?」などとご本人にたずねてみたのだが、その質問の仕方がわたしのききたかったことをきくためのものではないことに途中で気づいて、うまく対話できなかった。喋りながら踊るAokidさんはほんとうに魅力的で、作品を構成する際にいったいどのようにしてシーンをつくって/つないでいるのかとても気になったのだった。あらゆるものごとに秘められたパワーをひきだして、自身の引力によって巻きこんでいくAokidさんの作品には、まさに編集的な魅力があるんだなあ。


バースデイは東京キネマ倶楽部にすべりこんですごした。いつぞやのホステスクラブオールナイターでダイナソージュニアにのれねえなあとちいさい方のステージに行ったらでくわし、観るまでまったくしらなかったのにその日のベストアクトにおどりでたジョン・グラントの単独公演である。歌のうまい陽気なおじさんという感じでひじょうにたのしいきもちになったけれど、ホステスのときの高揚までにはいたらなかったのは新譜があんまりピンときてないからなのかなと思った。へんてこなダンスをステージ上でおどり、ゴジラが好きだとMCで話すジョンはすーぱーチャーミング! 物販に売られていたグレイテストマザーファッカーニット帽を買い、おれは家に帰った。田亀源五郎の買い損ねたのいまだに悔いている。


f:id:seimeikatsudou:20190321095151j:plain


今週末23日(土)の15:30-から現在開催中のわたしの個展に関連したトークイベントがあります。詳細はこちら。展示の成立過程や、ソフィカルとの比較、他者を作品の素材として扱うことの倫理の問題などについて会場のみなさんからの質疑感想交えながらお話しできればと思います。話がおもしろくなるかは当日のわたしとゲストの技量次第ですが(初のトーク、がんばります!)、企画自体がひじょうにラディカルだという自負はあります。ご予約お待ちしております○