50日分の野菜

大学時代のサークルの同窓会のため、下北沢へ。鳥目もあるが、やけに視力のおわりを感じる。すれちがうひとの存在がひとしくぼやけている。向かう小田急線はすでに赤ら顔のひとがそこかしこに立っており、ただよう酒気にさっそく東京の気分を感触する。到着した時間が飲み会の開始時間からしばらく経過した微妙な時間帯だったので、ちょうど屋台をひらいているというAのもとへ。コクと旨味の辛くない麻婆豆腐と紹興酒プーアル茶を馳走になり、ふたりよい気分で二次会へとなだれこむ。T、Iくん、H、K、Y、Kさん。ながい者では7-8年ぶりの再会。「あの気分でもう一度」なムードのもと、クラフトビールをパカパカ流しこむ。2.5次元演劇の魅力、ほうれい線へのフェティッシュ、社会にでてからも制作をおこなうこと、など、卓を変えながらさまざまな話を耳にする。それぞれの抱えるたいへんそうな事情を小耳に挟みつつも、みな総じて元気そうな顔をしており、うれしいきもちになる(元気そうな顔をしているからこういう場に来れるのである、返信のない、もしくは連絡できる環境にない同窓たち……)。わたしの顔も彼ら彼女らの瞳にそのように映っていたらよいと思う。

日が変わる前に解散し、西荻へ。改札の前ではQさん、Hさん、Sさん、Oくん、Kさん、Mちゃんがわやわやと出迎えてくれる。これまであまり話したことのなかったKさん、パワー系のコミュニケーションぢからを発揮していて、「そうなんだ」と思った。元気のこころ。



雨の音で起床。シャワーを浴び、Qさんおすすめのつけ麺屋に。舎鈴。まだできて日が浅いという店の前には行列ができているが、ふたりなので最後尾につき、おしゃべりをしてしばし待つ。店内は縦長で、立ち食いそば屋の店構えをそこにかさねる。食券機の前に立ち、1000円札と小銭を投入し、昨晩まともな食事を摂りそこねたのもあって、大盛りのボタンをぐいと押しこむ。うまい。つけ汁の酸味がうれしい。チャーシュー、メンマ、煮玉子、ねぎ、そして400gの小麦で腹がパンパンになる。



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雨で湿った小金井公園。同人の面々と会合。鬱蒼とした緑のさなかで行き交う無数の移民のひとらをながめつつ、それぞれ同じ赤いユニフォームを身にまとったそのすがたに「祭でもあるんですかね」と口にしながらOの祖父宅であるクソデカマンションで同人会議。郊外ではなく、都市的なロケーションをその舞台として設定している〈現代アジア映画〉にでてきそうなブルジョワジーの薫りがにおいたち、べつの棟がでかでかとそびえる窓からの風景にうおお、とテンションがアガる。ヒップホップをBGMに、あるいはせんじつOがライヴしていたイベントの記録映像をBGVに、発行期間中の最新号の話をし、次号のテーマと〆切を設定し、夕飯の買出しへ。Oはたけのことアスパラと鶏そぼろの炊き込みご飯を、わたしはニラと大葉のチーズ入り肉団子をつくる。キッチンがひろく、置いてある調味料もほとんどが賞味期限切れとはいえ「高級」の品格をもったものが多くて腕が鳴った。その甲斐あってかさっきまで腹がパンパンだったはずなのにごはんをおかわりし、ビールまで飲んでしまう始末。夜も更けてきたあたり、同人音声の話で盛り上がるわたしたちを見てAさんは辟易としていたのがおもしろかった。これまでだれともしたことがない話ができるひとのかけがえのなさ。いつか「服」の話ができる友人ができれば、と思いつづけて生きてきたが、これは死ぬまで叶うことはなさそうだ。

帰宅するとQさんはすでに寝入っており、Hさんも今日は帰らないということだったのでわたしもすぐに就寝する。



帰ってきたHさんとフライヤーの制作スケジュールの打合せを手早く済ませ、渋谷へ。駅に向かう道中、定期入れを忘れたことに気づきガンガンに萎える。せっかく昨日チャージしておいたのに!

イメージフォーラムにてトマーシュ・バインレプ×ペトル・カズダ『私、オルガ・ヘプナロヴァー』(2016)。インセル映画だ!とテンションがブチアガり、臨界点を暴走車による大量轢死に置くスタイルからも大森立嗣『ぼっちゃん』(2012)を想起したのだが、オルガを卑小で情けないものとして描いておわる幕切れのしかたがどうもひっかかった。死刑判決がくだされるまでは、いらだちのまなざしと、粗野かつひねくれた所作(鬱屈によってひん曲がった背中!)によって孤高かつ高潔な精神を体現していた彼女が、刑務所に幽閉後はかんたんに泣き喚く精神異常者として画面に再登場し、即物的にあっけなく刑を執行される。直後、のこされた家族の短い食卓のワンシーン(欠員はそこに入った亀裂の証左である)がつながれ、エンドクレジット。これではオルガのたましいは報われないではないか。完全肯定しろとは思わないが、命を賭して「死刑」に身を投じたオルガをあまりにもみじめなものとして映しておわるこの幕切れは、いささか「お利口さん」すぎるのではないか? オルガに代わって異議を申し立てておく。いっときの恋人となる同僚イトカとはじめて飲みに行くシーン、上裸にショートジャケットを羽織り、白い胸をむきだしにしながら欲望でぎらついた視線を彼女に送るオルガのスタイルがめざましいほどファッキンクールだった。また、オルガに脇毛を生やさせているのもはみだし者の表象としてすこぶるよかった、が、70年代のチェコでは脇毛は剃るのが「普通」だったのだろうか?