真逆の幻想トランポリン

佐藤泰志『黄金の服』を読みおえる。まだ何者でもない、あるいは若くしてすでに挫折して何者にもなれなかった男の青くて苦い日々が、収録された3篇すべてを通して色濃く描かれた中短篇集。彼の作品がたびたび映画のリソースになる理由がこれ1冊でようくわかった。やるせなくも微温的な閉塞と、そこに差しこむひとすじのひかり。希望と名づけるには少々心許ないその明度がよい。暗すぎず、明るすぎず。辛すぎず、甘すぎず。すすめてくれた北海道のHさんと話がしたいや。実家に帰ったら手紙を送りたいが、住所、どこにしまっただろう。わたしは手紙をいつまでもとっておくタイプだが、いつだか彼を撮ったポラロイド写真を送ったときに返事がかえってこなくて、参照することができない。よみすすめながら、わたしはこれから、1年という時間をかけて、するどさをたもったまま遅さを身体化させてゆきたいと思った。遅の知の血。

巨峰カルピスが売り切れていたのでオレンジのを買ってきて飲んでいる。わたしはカルピスをうんと薄くして飲む。6本入りのビールも買ったが、内臓的にしばらく酒は飲みたくない。嫌気がさすくらい胃がよわりきっていて、刺激のないものだけをくちにいれたい。

管理会社から更新の手続きにまつわる書類がとどいていた。退去の日の設定はもう来週中、つまりはこの記事があっぷされるころには決め打たないと、何も支払えなくてにっちもさっちもいかなくなる未来が見える。敷金はちゃんと返ってくるだろうか。そしてその頃には、会社員最後の数日間を過ごしているだろう。もうにどと会わないひとたち。考えてみれば、幼稚園も、小学校も、中学校も、高校も、大学も、そうしたにどと会わないひとたちばかりだった。


f:id:seimeikatsudou:20200817001019p:plain
127


柄谷行人『近代日本文学の起源』を読みはじめる。恥ずかしながら単著をちゃんと読むのははじめてだったりするのだが、序盤ですでにおもしろい。疑われることのない既成概念をどんどんくつがえしていくさまが痛快だ。

すごくひさしぶりに定時に会社をでる。引継ぎ作業を粛々とすすめながら、残務に精をだしている。胃はじくじくと痛むけれど、そのほうめんでわたしにできることは待つこと以外なにひとつなく、審判が下るのを待つというのはこういうきもちなんだなとこれまでの人生における経験を思いかえしながら考える。 

夜、アスパラと豚のバター醤油スパゲティ。買ったときには気づかなかったのだけれどこのアスパラ、見切り品だったのに(から?)2束も入っている!