受像のフレームワーク

すでにわれらの憩いの場となった狼騎に行き、映画の話をする。灰皿に増えていく煙草同様、話を積もらせていると背後のテーブルから「黒沢清」という単語が聴こえてきて、なおかつSさんが「審査員いる」と打ちこまれたスマホの画面を見せてきたからにはわれらが卓につよい緊張が走ることになる(のちのち確認したところ、該当の人物はどうやら審査員ではなかったよう)。こわばりを肩に乗せながらしばらく歓談したあと、駅に土産を買いに行くと言ったら皆もついてきてくれたのでみしらぬ街を散歩する。道中、わたしの髭に感銘を受けたおじさんから突然に握手を求められ、応える。歩いていたらいきなり肩を叩かれ、しりあいか?と穴が開くほど相手を見つめたが、わたしのあたまには目の前の顔と一致する顔は浮かばず、代わりに「立派な髭だねえ」という言葉がその穴から放たれたのだった。

ぶじに金澤文鳥をゲトったのちは今日もKさんの案内で焼き鳥屋へ。釜飯と串をバクバク食べる。昨日の中華屋もそうだが、観光客が足を踏み入れないであろうこうした店に連れていってもらえるのはひじょうにありがたい。OさんもKさんもバチバチにおしゃれだった。おしゃれをしようと思うきもちはこのところだいぶ消滅していたが、ふたりを見ていて多少よみがえるものがあった。初日のリベンジにOくんがいっしょに魚と日本酒を、と言いだしてくれて、河岸を変えて刺身で日本酒を飲む。手取川。うまい。店員の茶豆推しがおもしろかった。バスの時間が迫ってきたのでわたしは一足先に店を抜け、夜行バスで東京へ。何年ぶりの乗車かもわからないが、それなりに眠ることができた。金沢滞在中にはクラクションを連打されたこと以外はさほどそう思わなかったが、前の座席の若者が缶チューハイを飲んでいたのを見て、Kさんが言っていた治安のわるさをさいごに感じとることができた。

早朝に新宿着。こんな早い時間に着いてもな、とサザンテラス口のところどころ雨で濡れているベンチに座っていると、山形からやってきたという女子高生ふたりが濡れを避けるためにありえないほどめちゃくちゃ隣に座ってきておもしろかった。座る前のふたりのやりとりもわらった。当人にちゃんときこえているぞ!

ゴールデン街の凪で朝食。24時間営業のありがたさ。こんな朝だというのにあっという間に満席になり、人気の高さがうかがえる。凪はノーマルの麺量が少ないので、大盛りでも平らげることができる。台風近づく曇りの新宿を抜けて横浜へ。マルイが開くまでタリーズで読書。『地図と領土』第二部のおわりまで読む。帯にデカデカと書かれている出来事(ネタバレだ!とキレているにんげんを見たことがある)はまだ起こらない。開店の頃合いを見て退店し、プリストへ。ひろい! 陳列されている商品も東京店より多くてテンションがアガる。ミルキィローズとキュアフィナーレまわりのグッズといくつか買い、階下の駿河屋へ。ひと通り見て外にでると圧倒的暴風雨が待ち構えていた。はあーあ、と思いつつローソンで傘を買って台風のさなか映画館へ。ヨユーで全身がビチョビチョになり、ウエルベックもたわみを免れない状態になる。映画館の入り口がよくわからず、変なエレベータに乗って変なフロアに到達してしまう。

深田晃司『LOVE LIFE』(2022)@kino cinéma横浜みなとみらい。深田晃司最高傑作。プリズムのように乱反射しあう人々が、あるひとつの死をきっかけに再会し、離別し、再会する。精神を建て直す建築のリズム、光から影を横切って、ふたたび光のなかへと歩みだしていく生のありよう。室内を走り回る光≒子供、憎たらしくも愛らしいその「子供性」。やりきれない感情の言語化不可能な発露(ミヒャエル・ハネケ『コード・アンノウン』の冒頭のシーンをわたしは思いだす……)。父親のカラオケシーンにおけるフレーム外の緊張、を破る駆け回るこどもを追うカメラはついぞ沈下するその運動。多面を切断する吐露のドラマ、夫婦を追いかけるシーンのよさ。[なにかしら秩序立てて感想をまとめるつもりだったが、更新日時直前までメモを羅列していただけだったことを忘れていたのでそのまま載っけておく]

鑑賞時間を通して多少は乾いたからだで渋谷に移動し、モディのプリスト出張店へ。あまねちゃんとミルキィローズのグッズを買う。くじ引きはらんらん。HMVブックスとジュンク堂もプラるが、何も買わずに帰る。



モディのプリキュアたち(変身前)


HQハウスに邪魔する前に湯屋へ。台風が来ていることもあり、場内は空いていた。雨風に荒らされた身体を湯船に沈め、しばし沈思する。水風呂に入り、ここにはサウナがないんだっけなとそしがや温泉21をなつかしむ。湯船と水風呂のローテーションをなんどかくりかえし、いざあがらんと水シャワーを浴びていると、レバーをいじっても水がドバドバ止まらない状態になり、いそいでからだを拭いて番頭さんに助けをもとめる。が、単に水の切れがわるいだけでどうもこわれたわけではなかったようである。点検をおえて説明にきたオーナーの笑顔にひと安心してロビーまでもどると、どうも風雨がやばい音を立てており、しばらく看板猫の毛繕いするさまをながめながら雨雲が去るのを待った。誰もいない家に帰り、『LOVE LIFE』のパンフを読んでいたらいつの間にか眠ってしまい、Hさんが帰ってきたタイミングで目が覚めた。挨拶を交わし、退職祝いにもらったという日本酒と菓子で乾杯する。ミラが観客賞を獲った祝酒だ。

Qさんが帰ってきて、3人で銚子丸へ行く。銚子丸の寿司はうまい。夜にはジンギスカンが控えているのでほどほどにしなきゃだめだと諭してきたHさんが、夕方になっても「腹いっぱいだ……」と嘆いていた。Sさんと駅で合流し、ラム肉を焼き、食す。うまい! 噂通り「圧倒的ウマ」だった。際限なく食べられそうだったが2軒目の予定もあったのでほどほどにしつつ、Sさんを祝う。2軒目ではOくんもやってきて、串焼きを食べながら酒をガブする。延々とサムライロックを飲むHさん。Sさんと別れて4人で家にもどり、音楽をかけながら談笑。現代ポストパンク考だ、とプレイリストをつくったはいいが、Qさんの後を追うようにしてわたしもすやすや眠ってしまう。

04:56に目覚め、二度寝、三度寝をくりかえす。いつの便で帰ろうかなとチケットサイトを見ていると、午前の便に安い券種がでていたので購入。しばらくしてHさんが起きてきたのでしばし歓談し、別れのあいさつを交わす。コンビニで買ったおにぎりとサンドを食べ、バスでは『地図と領土』を読み終える。さらにバスを乗り継いで、自宅にもどってくる。乗客は3人きりだった(途中、制服すがた少年がひとりで乗ってきて、誰よりも早く降りていった)。