まだ会う前の恋人さ

保坂和志「残響」を読んでいて、スピッツの「空も飛べるはず」を歌う女があらわれたので、アップルミュージックで『空の飛び方』を再生した。名曲「スパイダー」や「青い車」はもちろん、「不死身のヴィーナス」や「恋は夕暮れ」というわたしのなかでもスピッツベスト20に入る楽曲が収録されている。かつてスピッツ・ナイトを自身の運営するスペースで開催した際に参加者のあいだで集計した好きな曲ランキング、グラフィック化するといってしないままいちねん以上経ってしまった。そんなものが周囲にはたくさんころがっていて、いま手をつけている編集中の写真集も、さいごに触れたのは2年ちかくまえになっていた。2年まえの感性と妥協を、いまの目で見つめる作業は、それなりの成長を感じることができてわるくはない。ちゃんとボツにする勇気が試されている。

すでにできていた50頁ほどのものを組み替えつつ、明け方までかかって60頁までふくらませる。最終的には72頁か80頁にする予定。手持ちの写真集をパラパラめくりながら、作業をすすめていた。完成したのちに海外のコンペに送るつもりなのだが、郵送日数が博打みたいなところがあるみたいでおいおいおとなっている。時間とのたたかい! いま送ったとしても間に合わない場合もある、という可能性をあたまに入れながらやる作業のむなしさよ。

献立、ポークチャップ。わたしはこの料理の名前が好きだ。半濁音にはじまり、半濁音でおわるこの単語は、長音・拗音・促音をそのうちに擁していて、くちにだしているとたのしく愉快な気分になってくる。北原白秋の作詞した「あめふり」のなかに「ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン」というフレーズがあるが、そのはずみまわるよろこびがこのワードには詰めこまれている。あなたが発音してうれしいきもちになる言葉はなんですか。


f:id:seimeikatsudou:20210920112444p:plain
423


アップルミュージックが流してきたマック・デマルコのメタリカ「エンター・サンドマン」カバーを聴いてテンションが上がる。ふだんのサウンドメイクでなく、ちゃんとメタラー然としている。メタリカをちゃんと聴いたことがないので原曲はしらないのだが。そしてわたしも何かをカバーしてみたいと思った。これは音楽の話ではない。音楽でいえば、さいきんメリッサのイントロのベースを弾いている。たのしい。

写真集、ぶじに中身のエディットがだいたいおわる。ちいさな修正や差し替えはあるかもしれないが、中心となる流れが完成した。よくもまあこんなスピードで、と自分を褒めたたえる。ミニ版を印刷し、じっさいにめくって具合を確認する。よい感じ。問題は製本だ。のりづけをしまくる造本を考えているのだが、すでにだるすぎる。明日から涙をのむことになる。とはいえ、しあさってには郵便局に託したい。

夜、zineの会議。企画者のTさんと書き手のひとりのTさんと。だいぶ全景が見えてきた。