ゴブリン、ポストゴブリン、プレゴブリン

音楽におけるゴブリンといえばサスペリアサウンドトラックも担当したイタリアのプログレバンドですが、本稿で紹介するPREGOBLIN(プレゴブリン)は、2016年に結成されたサウスロンドン出身のツインボーカルロック・デュオです。Fat White Family(ファット・ホワイト・ファミリー)の前身バンドのひとつであるThe Saudis(ザ・サウジズ)の元バンドメンバーであるAlex Sebley(アレックス・セブリー)と、Gorillazゴリラズ)、Fat White Family、Dinosaur Pile-Up(ダイナソー・パイルアップ)のメンバーなどとコラボレーションし、近年はJazmin Bean(ジャズミン・ビーン)のプロデュースも手がけているJessica Winter(ジェシカ・ウィンター)のふたりが紡ぐ、シアトリカルで、「ちょっとクサいビッグサウンド(the slightly hammy big sound)」は、ジェシカの家の庭にあるちいさな納屋を拠点に生みだされ、DIYスピリッツをそのうちにこもらせています。

 

 

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どこか気怠げでフォーキーなムードをただよわせる今回の試訳曲「Gangsters」では、経済格差がひろがるばかりの現代に生きるわたしたちを「ギャングスター」になぞらえて、クソのような家賃とローンに押しつぶされながらも、生きていくためにおたがい奪いあっていかざるを得ない悲哀がアイロニカルに描かれています。今回は先に試訳を掲載してみましょう。ヘンテコなところや間違っている部分はどんどん指摘してください。

 

PREGOBLIN  - Gangsters

 

You like money

きみはお金が好きだね

But you don’t have money

でも一文無しだ

Gangsters have money

ギャングスターたちはお金を持ってる

Gangsters love them

ギャングスターはそんな貧乏人たちを愛している

 

You like your flat

きみはきみの安アパートが好きだね

But you can’t pay rent on that

でも家賃が払えない

When payday loans and Wonga

消費者金融の法外ローン

What’s wrong with ya

いったいどうしたのさ

 

Orange juice and white bread

オレンジジュースと食パンを

You’re not listening to a word I said

きみはわたしのいってることを聞いていないね

Strung out and underfed

疲れ果てて栄養失調

You’ve got a bad case of being dead

もう死んでるみたいだ

 

Oh, gangsters

Love them

Don’t you?

おお、ギャングスタ

貧しいやつらを愛するギャングスタ

そうだろう?

 

Oh, gangsters

Baby

おお、ギャングスタ

ねえ

 

Oh, gangsters

Love them

Don’t you?

おお、ギャングスタ

死にかけの貧乏人たちを愛するギャングスタ

そうでしょう?

 

Oh, gangsters

Yeah

おお、ギャングスタ

イエー

 

You save your whole damn life

When you could just rob somebody

きみのくそったれな人生は

他人から奪うことができたときに守られる

 

You and your buddy

Somebody love them

きみも、きみの友達も

ほかの誰かもそうすることに精をだしてる

 

You save your whole damn life

When you could just rob somebody

きみのしょっぱい人生は

他人から奪うことができたときに救済される

 

You and your buddy

Somebody love them

きみも、きみの友達も

ほかの誰かもそうやって生きのびてる

 

かなしい歌ですね。おれたちみんな、ビンボーギャングスター。押しあい圧しあい、どっこい生きてる。途中にでてくる「Wonga」というのは消費者金融のことで、海外にはpayday loanというアコムレベル100みたいなのがあって、これもその仲間のようです。わたしも奨学金の返済がつらくてつらくてしかたがありません。

 

 

 

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楽曲を裏切るようなアートワークのかわいさも、作品にあつみを与えています

 

ジェシカとセブリーのふたりは、ともにポーツマスのヘイリング島にて生まれ育ち、地元のライヴハウスで10代を過ごしていましたが、そこですれちがうことはなく、邂逅を果たすのは数年後のロンドンにおいてでした。はじめてのライヴのために名づけられたPREGOBLINというバンド名は、鎮痛剤のPregabalin(プレガバリン)から取られています。もともとはMichael Gambon Addict(マイケル・ガンボン・アディクト)という名前で活動していたようで、こうしたネーミングセンスにも、楽曲にあるようなひねりのきいた意識がはたらいているのがうかがえます(マイケル・ガンボンは『アズカバンの囚人』以降のハリー・ポッターシリーズでダンブルドア役を務めている俳優です。アディクトは中毒の意)。

 

彼らは「パーティで人々を踊らせること」を曲づくりの中心に据えています。フロアで聴きたい音楽はポップで踊れる曲だと、ジェシカは「The Quietus」誌のインタビューで語っていました。そんな彼らが、「HATE ZINE」という社会正義を掲げるラディカルかつインディペンデントなZINEのリリースパーティで演奏をしている模様がYouTubeに上がっていますので、今回はそれを観ながらお別れです。

 

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冒頭はメンバーであるJessica Winterのソロで、15:36あたりからPREGOBLINのパフォーマンスがはじまります。サムネイルにもなっている、演者も観客も入り混じってステージ上で踊りまくる18:58-がハイライトです