ずだだだどろどろ

 まつゆりちゃん、今日はいつもとちがって大人っぽくて、なんだか素敵〜とおめめぱちくりまつげはほろり、ついでに口紅ぺろりまでしちゃって、ほわわ〜いま目があった! 目があったよぜったい! わたしとまつゆりちゃんのまなことまなこがどっきんぐ! いやん! えちち! そこに太陽、雲を剥ぎつつ灰色ずずーんのおそらからあらわれて、やばいツラしておそいかかってくるものだから、わたしもおこりんぼ大将軍になって箸をつき刺す、ぎゅぎゅうっとにぎり箸して、天にひらいた両の眼に、箸先をぶすりとつき刺す!
 するとすると、そこから雨がずだだだ、ずだだだって降り注いじゃうもんだから、わたしはすかさずまつゆりちゃんのもとにいってビニ傘を差す! すまーとに差す! じぇんとるに差す! ねね、まつゆりちゃん大丈夫? うん、ありがとう。わ、まつゆりちゃんからのお返事! わたしに向けての感謝の言葉! 感激のあまり傘をクルクルしたら、周りの子たちからヒナンゴウゴウ、アメアラレ。やーやー、ごめん、ごめんてば。ちょっと、もう、いたい、いたいってば!と払った手の先、ぷつりと音たてぬぷりする。うぷ。うっかり箸をにぎったままだったわん。ろれろれ。思わずげろげろり、とかやってるうちに、またも太陽、たてがみふるわせ眉間に皺寄せこちらに向かってくるではないですか。おのれ、むかっ、むかっとむかっぱらおったてて、怒髪は天をついちゃって、青筋ぴきり、怒声をあげて、歯もめんたまもむっきむきのむきだしにして、のっしのっしとたち向かってゆくわたし。そんな勇姿を目のあたりにして、まつゆりちゃんもわたしにもっと興味とラブをもってくれるのではでは?なんてふりむきざまにウインクしちゃってからに、かわいささくれつ、後光まで差す。
 差した光はぬぷりしちゃったあの子の眼孔をもつき抜けて、ぐんぐんぐんぐん、どこまでも軽やかにのびていく。それを見てるとついつい、わたしもうにょにょ〜んとのびていっちゃいそう。でものびない。めげない。泣いちゃだめ。いけいけ精神呼び起こして、いく、いくいく、まつゆりちゃんのためにわたしいく。お行儀わるく、太陽にとどけ仏箸! こんな透明なビニールじゃ、紫外線防げないって、ておねえちゃんいってたけど、じつは意外と防いじゃったりするんじゃないの、てわたし思ってる。まぶしいけど、可視光線は信じらんないくらいひかっててぜんぶまっしろだけれど、そんなまぶしさも自分の後光にしちゃうくらいわたしは前向きなんだから!
 しかして太陽、コロナをわなわな、プロミネンスをびゃおびゃおさせながら、わたしたちの頭上をササッと、燦々びからせていく。これ、きてる、きてるね、わからせに、わからせにきてる。まるでライオンみたいに、でも、ライオンよりも遥か昔からそうである太陽が、自らの威信でもってぎんぎらに吠えたてて、わたしたちのからだをすーっと通り抜けていく。そのたびに、どくんどくんて、ちいちゃな心臓が音たてて、これが生きてるってことなんだって、わたしはカンドウする。感じて、動く、わたしのからだ!
 でもでも、あれ? あれ?って、こんなはずじゃなかったのにって、なんでこうなっちゃってんだって、わたしの手からは箸も傘もこぼれおちちゃって、胸のなかの淡い日溜りが、だんだん温度と濃度を増してって、皮膚がただれ、目がつぶれ、ぐつぐつぷつぷつしはじめて、あたまがフットーしそうだよって、叫ぶまもなくとけてった。身を焦がすって、こーゆーことなの? まつゆりちゃん? て、わたしの隣にはどろどろがどろどろにまざりあって、わたしもどろどろそのなかにどろどろ。どろどろ。どろどろ。